ニュースの概要
英国保険協会(ABI)の統計で、2025年に保険会社が見つけた海外旅行保険の不正請求は前年より85%多い4,500件に達した。保険の種類別では最大の増加率である。被害総額は16%増の860万ポンドで、1件あたりの平均は約2,000ポンド。つまり件数の伸びほど金額は膨らんでおらず、小口の不正が裾野を広げていることがうかがえる。悪質な例では、偽の身元情報、偽造の診断書、請求を裏づけるために作られた偽ウェブサイトを組み合わせ、30万ポンド規模の詐欺に及んだものもあった。保険業界は、申込時と請求時の確認を厳しくする方向に動いている。
引用元: 英国で海外旅行保険の不正請求検知件数が85%増加(Insurance Business UK)
分析・見解
件数は85%増でも金額は16%増にとどまる理由
今回の数字で目を引くのは、件数と金額の伸びの差である。件数が85%増えた一方、総額は16%増だった。単純に考えると、1件あたりの額は下がったことになる。背景には、検知の網が細かくなり、これまで見逃していた少額の不正まで拾えるようになったことがあるだろう。手軽に作れる偽の領収書や診断書が出回り、小口の水増しが増えた可能性もある。
平均約2,000ポンドは、海外での通院や携行品の盗難として現実味のある額だ。審査が通りやすい金額帯を狙う心理が働いているとも読める。生活費の高騰を動機に挙げる声もあるが、今回の数字だけでは断定できない。
偽ウェブサイトまで作る手口が示す書類審査の限界
30万ポンドの事例で注目すべきは、偽サイトが請求の裏づけとして使われた点だ。これは平均額の約150倍にあたる。保険会社の担当者は、病院や宿泊先の名前を検索して実在を確かめることがある。その確認先そのものが偽物なら、確認作業が逆に信用を与えてしまう。書類の見た目を調べる従来の審査は、生成AIで精巧な書類が作れる今、効力が落ちている。確認先の連絡先を請求者の提示に頼らず、別ルートで調べる習慣が欠かせない。
海外旅行保険が狙われやすい三つの構造的事情
海外旅行保険には、不正をする側に有利な条件がそろっている。まず、事故が国外で起き、現地の状況を確かめにくい。次に、保険期間が短く、契約から請求までの履歴が乏しい。そして、金額が小さく、調査費用のほうが高くつきやすい。自動車保険のように事故歴のデータが長年たまっている種目とは違い、見抜く手がかりが少ない。増加率が最大になったのも不思議ではない。
厳格化が正直な旅行者に及ぼす副作用と対処
審査を厳しくすれば不正は減るが、本物の被害者の手間も増える。診断書の原本提出や追加の本人確認が重なれば、旅先で病気になった人の負担は大きい。重要なのは、疑う作業を人の目に集中させないことだ。申込時の情報の整合性チェックなど、前段で機械的にふるい分ければ、問題のない請求は早く支払い、怪しい請求だけに人手をかけられる。訪日客の増加や海外渡航の回復が続く日本でも、同じ構図は起こりうる。
ビジネスへの影響
日本の保険会社と代理店が見直せる三つの運用
第一に、請求書類の確認先を、請求者が示した連絡先ではなく、公的な名簿や公式の代表番号など独立した経路で調べる運用にそろえる。第二に、申込時と請求時の情報(氏名、住所、メールアドレス、利用端末)に食い違いがないかを自動で突き合わせる。第三に、少額請求の一部を無作為に抜き取って調べ、小口なら通るという期待を崩す。三つとも大がかりな投資は要らず、運用ルールの変更から始められる。
出張を管理する企業と旅行者の記録の残し方
社員の海外出張でクレジットカード付帯保険や団体契約を使う企業は、請求書類の保管ルールを決めておきたい。領収書、診断書、現地の連絡先を、事故の直後に撮影して保管する。これは不正を疑われないためだけでなく、本物の請求を早く通すための備えでもある。記録がそろっていれば、審査が厳しくなっても確認は短く済む。請求の代行を持ちかける業者や、聞き慣れない医療機関への支払いを急がせる話には応じないよう、出発前の説明で周知しておくとよい。
審査の厳格化を顧客対応の強みに変える視点
確認が増えるほど、顧客の不満も増えやすい。審査の理由を事前に案内ページで示し、必要書類の一覧と支払いまでの目安日数を伝えておけば、不信感は和らぐ。厳しい会社ではなく、正しい請求を守る会社と受け取ってもらえる説明が、結果として苦情や解約を減らす。
